ノロウイルスの潜伏期間や症状、対策を解説【もしかしてノロ?】

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ノロウイルスの潜伏期間や症状、対策を解説【もしかしてノロ?】
2020/08/27

毎年流行するノロウイルス。

激しい下痢や嘔吐が続くため、ひとたび感染すると仕事や家庭に大きな影響が及びます。

病院ではノロウイルスとは診断されず「急性胃腸炎」と診断されるのが一般的。ノロウイルスと診断するためには、キット検査や高価な遺伝子検査をしなければならず、「ノロと分かっても治療薬やワクチンはない」と言われた人も多いのではないでしょうか。

さらに、症状が全くないのに感染している不顕性感染のケースも(これがやっかい)。

ここでは、そんなノロの症状や潜伏期間、消毒方法を解説します。感染対策や感染後の正しい対処にご活用ください。

もくじ

ノロウイルスの潜伏期間

12~48時間程度です。

潜伏期間とは、感染してから症状が現れるまでの時間のことをいいます。

ノロウイルスの症状

おう吐・強い吐き気

ノロの典型的な症状。突然吐き気に襲われたり、強烈な嘔吐が抑えられず、トイレにたどり着く前に部屋や床、服に吐いてしまうことも多いのがノロウイルスの特徴。「トイレにこもった」、「トイレから出られなかった」などもよく言われます。

嘔吐による窒息や誤飲性肺炎

ノロウイルスによる嘔吐で窒息や誤飲性肺炎を引き起こし、高齢者が亡くなる場合があります。

腹痛・下痢

水のような下痢(水様性下痢)が起こります。高齢者や乳幼児の場合、嘔吐や下痢で脱水症状を起こし、重症化する場合があります。

発熱

約37〜38℃の軽度の発熱を伴うことがあります。

頭痛、筋肉痛

頭痛、筋肉痛なども起こる場合があります。

高齢者や子供の嘔吐に注意

ノロウイルスの症状である嘔吐が、窒息や誤飲性肺炎を併発し、高齢者や乳幼児が亡くなった例があります。

ノロウイルスの排出期間

排出期間は個人差がありますが、およそ50%の人が8日目にノロウイルスの排出が終わるという報告もありますが、長い場合は1ヶ月以上排出が続くことがあります。

また、高感度の方法(リアルタイムRT-PCR法)で調べた結果だと、11日経っても9割の方がノロウイルスを排出している可能性もあり、とくに調理者や介護士などはリアルタイムRT-PCR法でノロウイルスの排出が終わったことを確かめる必要があります。

ノロウイルスの排出期間
ノロウイルスの排出期間

表のデータの出典:岩切ら、宮崎県衛生環境研究所年報、16:p41-44、2004

ノロウイルスと思ったら何科?、診てもらう科は?

内科、消化器内科、胃腸科、小児科、かかりつけの診療所などを受診します。

ノロウイルスの感染経路

ノロウイルスの感染経路は一つではなく、いくつかケースがあります。

食中毒ノロウイルスを含む食品を介して

汚染された牡蠣(カキ)などの二枚貝そのもの、あるいはそれに触れた調理器具を介して感染します。

感染者が食品を汚染することによって

感染者が調理に携わることで、ウイルスが食品を汚染し、それを口にした人が感染します。学校給食など国内の大規模集団感染は、このケースが多いです。

感染者による環境汚染

おう吐物の処理や介助、ドアノブ、井戸水などを介して感染します。

ノロウイルスは空気感染?飛沫感染?

まずノロウイルスが空気感染なのか飛沫感染なのか理解する必要があります。

ノロウイルスは空気感染するのでは?と以前から専門家が指摘しています。実際に、結婚式場や宿泊施設、ホテルで感染者が嘔吐し、その会場の複数の人や後日その部屋を利用した人が感染したケースが報告されています。

もしノロウイルスが飛沫感染だけなら、おう吐した人の近くにいた人や嘔吐物を処理した人の感染だけで治まるはずですが、その翌日以降の来場者、利用者も感染したケースを考えると、ノロウイルスは飛沫感染だけと言えません。

では本当に、インフルエンザウイルスのように空気中を漂い、息を吸い込むだけで感染してしまうのでしょうか。
その答えは感染症情報センター(国立感染症研究所)の「ノロウイルスの感染経路」にて、「ノロウイルスは空気感染の一種である塵埃(じんあい)感染を起こす」と書かれています。

塵埃(じんあい)感染

塵埃(じんあい)感染とは「空気感染」の一種で、おう吐物などに含まれるウイルスが乾燥してふたたび舞い上がった塵埃(ちり、ほこり)を人が吸い込んで感染することです。実際に結婚式場などで数日間にわたり発生したノロの集団感染は塵埃感染により発生しました。

なぜノロウイルスは毎年流行するか?

その原因は3つあると言われています。

排泄物・おう吐物中のウイルス数が膨大

1グラムあたり10億個以上のノロウイルスが含まれていることも多く、非常にウイルス数が多いのが特徴です。

感染力がとても強い

10~100個が口に入っただけで感染してしまうことが分かっています。よって、たった1グラムの嘔吐物や糞便で10万人の人を感染させるだけのウイルスが含まれていることになります。

たったこれだけで10万人が感染する量のノロウイルスが含まれる

ウイルス排泄期間が長い

感染した約半分の人は8日間、4人に1人は22日以上ウイルスを排出します。1ヵ月以上ウイルスを排出する人もいます。

ノロの特殊な不顕性感染

もうひとつ大きな原因があります。それは不顕性感染です。次で詳しく解説します。

ノロウイルスの不顕性感染

症状が全くないのに感染しているケース、いわゆる不顕性感染がノロの特徴です。不顕性感染は、ノロの場合、実に感染者の半数近くで起こっていることが分かってきました。感染に気づかないまま不顕性感染者が集団食中毒を引き起こすケースもあり、調理や介護、保育に関わる仕事の人にとくに恐れられています。

インフルエンザの不顕性感染とどう違う?

インフルエンザにも不顕性感染は知られていますが、不顕性感染の場合は排出ウイルス量が少ないため、現実的には感染が成立する場合は少ないとされています(出典:「インフルエンザの不顕性感染者が感染源となる頻度」日本医事新報社)。

しかし、ノロウイルスの場合、不顕性感染者(おう吐などの症状が全くないが、ノロウイルスに感染している人)も、おう吐をする感染者と同じ数のノロウイルスを排泄物中に排出しているため、不顕性感染者からノロウイルスに感染する人が多いと考えられています。

あるデータによると、糞便1gあたり10億個以上排出している不顕性感染者が不顕性感染者中20%以上いる可能性があるそうです(出典:「ノロウイルスによる食中毒について」食衛誌)

ノロウイルスの生活環

ノロウイルスの生活環
ノロウイルスの生活環

ノロウイルスは、ヒトの体内で増殖すると、トイレの配管や下水管を通って、川や海に流れ、そこで、二枚貝に取り込まれ、漁獲により、ふたたび人間社会に戻る、という生活環を持っています。

増殖できるのはヒトの腸管内だけです。

なぜノロウイルスは冬に流行するの?

冬になると、二枚貝の調理頻度や喫食機会が増えます。それに伴いノロウイルスが蔓延しはじめるため、食材が一つの原因と考えられています。ただし、はっきりとしたことは分かっていません。ウイルスは低温でよく保存されるため、単に食材面だけでなく、季節的な要因も考えられます。

なぜ二枚貝がノロウイルスを持っているの?

ノロウイルスと牡蠣

二枚貝は海水をそのまま吸い込んで、その中に含まれるプランクトンを濾過して食べます。

・牡蠣:1日約200リットルの海水をろ過

・アサリ:1日24リットルの海水をろ過

牡蠣はおよそお風呂1杯分の海水を毎日濾過します。

下水が流れ込む河口や汽水域などにはノロウイルスが浮遊しているので、カキたちはそのつもりがなくてもウイルスを自然と体に溜め込んでしまいます。これが牡蠣などの二枚貝がノロウイルスを持っている理由です。

したがって、二枚貝であるアサリやタイラギ、ハマグリ、シジミなどでもノロの保有は知られています。牡蠣が生食されるのに対し、アサリやシジミは生で食べることがないため食中毒はまれですが、それでも包丁など調理器具を介して他の皿(刺身、サラダなど)を汚染し、食中毒が発生したケースがあります。

ちなみに、牡蠣をはじめ二枚貝は身全体にウイルスを保有しているわけではなく、主に中腸腺に溜まります。牡蠣にはノロは感染しないようです。

二枚貝でない貝はノロを持っていないの?

サザエ、アワビなどの巻貝によるノロウイルスの食中毒事例はほとんど報告されていません。巻貝の仲間は、海草を食べる摂食なので、ノロウイルスが溜まりにくいと予想されます。

ノロウイルスの対策・消毒方法

ご家庭や介護施設、保育園などでノロウイルス感染が発生した場合、早期に蔓延を食い止めます。

アルコールが効かないってほんと?

全く効かないわけではありませんが、十分な効果が得られないため、厚生労働省や自治体はノロウイルスの消毒にアルコールを推奨していません。基本的には次亜塩素酸ナトリウムが消毒の基本となりますが、処理方法はシーンごとに異なります。厚生労働省のパンフレットをご覧ください(下)。

ノロウイルスの消毒薬作り方
ノロウイルスの消毒薬作り方

出典:厚生労働省「ノロウイルスリーフレット」

感染者のふん便やおう吐物の消毒処理

床等に飛び散った患者の吐ぶつやふん便を処理するときには、使い捨てのガウン(エプロン)、マスクと手袋を着用し汚物中のウイルスが飛び散らないように、ふん便、吐ぶつをペーパータオル等(市販される凝固剤等を使用することも可能)で静かに拭き取ります。拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム※(塩素濃度約200ppm)で浸すように床を拭き取り、その後水拭きをします。おむつ等は、速やかに閉じてふん便等を包み込みます。

おむつや拭き取りに使用したペーパータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄します。(この際、ビニール袋に廃棄物が充分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム※(塩素濃度約1,000ppm)を入れることが望ましい。)

また、ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐ぶつやふん便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理し、処理した後はウイルスが屋外に出て行くよう空気の流れに注意しながら十分に喚気を行うことが感染防止に重要です。

11月頃から2月の間に、乳幼児や高齢者の間でノロウイルスによる急性胃腸炎が流行します。この時期の乳幼児や高齢者の下痢便および吐ぶつには、ノロウイルスが大量に含まれていることがありますので、おむつ等の取扱いには十分注意しましょう。

※家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用できます。(使用に当たっては「使用上の注意」を確認しましょう。)

感染者のふん便やおう吐物が付着した布団・リネンの消毒処理

リネン等は、付着した汚物中のウイルスが飛び散らないように処理した後、洗剤を入れた水の中で静かにもみ洗いします。その際にしぶきを吸い込まないよう注意してください。下洗いしたリネン類の消毒は85℃・1分間以上の熱水洗濯が適しています。ただし、熱水洗濯が行える洗濯機がない場合には、次亜塩素酸ナトリウム※の消毒が有効です。その際も十分すすぎ、高温の乾燥機などを使用すると殺菌効果は高まります。布団などすぐに洗濯できない場合は、よく乾燥させ、スチームアイロンや布団乾燥機を使うと効果的です。また、下洗い場所を次亜塩素酸ナトリウム※(塩素濃度約200ppm)で消毒後、洗剤を使って掃除をする必要があります。次亜塩素酸ナトリウム※には漂白作用があります。薬剤の「使用上の注意」を確認してください。

※家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用できます。(使用に当たっては「使用上の注意」を確認しましょう。)

感染者が使用した食器類の消毒処理

施設の厨房等多人数の食事の調理、配食等をする部署へ感染者の使用した食器類や吐ぶつが付着した食器類を下膳する場合、注意が必要です。可能であれば食器等は、厨房に戻す前、食後すぐに次亜塩素酸ナトリウム液に十分浸し、消毒します。

また、食器等の下洗いや嘔吐後にうがいをした場所等も次亜塩素酸ナトリウム※(塩素濃度約200ppm)で消毒後、洗剤を使って掃除をするようにしてください。

※家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用できます。(使用に当たっては「使用上の注意」を確認しましょう。)

感染者が発生した場合の、環境への消毒処理

ノロウイルスは感染力が強く、環境(ドアノブ、カーテン、リネン類、日用品など)からもウイルスが検出されます。感染者が発生した場合、消毒が必要な場合次亜塩素酸ナトリウム※などを使用してください。ただし、次亜塩素酸ナトリウム※は金属腐食性がありますので、消毒後の薬剤の拭き取りを十分にするよう注意してください。

※家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤でも代用できます。(使用に当たっては「使用上の注意」を確認しましょう。)

ノロウイルスの食中毒を防ぐには

食材を十分に加熱します。ノロウイルスは熱に弱いので、二枚貝などの場合中心部を85℃〜90℃で、90秒以上加熱すると不活化できます。

見落としがちなのが、調理器具です。カキなどの二枚貝を調理した器具(まな板、ボール、ざる、包丁など)は熱湯消毒します。

ノロウイルスの治療薬・ワクチン

現在、ノロウイルスの治療薬・抗ウイルス薬・ワクチンはありません。

病院で処方される薬には以下があります。

吐き気止め

吐き気がある場合、処方されます。

下痢止め

下痢がある場合、処方されます。ただし、治療期間は変わらないという報告も多く、強い下痢止めはあまり処方されない傾向にあるようです。

※高齢者・乳幼児では下痢による脱水症状を生じる場合があるため、医師の指示に従います。

整腸剤

ビオフェルミン、乳酸菌製剤などが処方されます。

イソジンは効く?

イソジンはノロウイルスの消毒に効果があります。手などの消毒に有効です。

ノロウイルスの検査

現在、イムノクロマト法という簡易検査とリアルタイムRT-PCR法という高感度検査があります。

イムノクロマト法は病院内で15分程度でできるというメリットがありますが、感度が低く、ノロにかかっていても陰性となる場合があります。

リアルタイムRT-PCR法は、高感度ですが検査料金が7,000円以上と高く、また検査会社に外注することが多いため、結果が分かるのに数日かかります。

この記事の監修:元大学教員(環境学博士)。バクテリオファージ、ウイルス、0157、サルモネラなどの学術研究に従事

*PhotoACより

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