図鑑や昆虫サイトで幾度となく眺め、いつかは実物をと憧れていた本種。憧れはいつまでも憧れのまま・・・それがいつものパターンだが、本種はついに目の前に現れてくれた。
発見日記1(初見時)
初夏、本種狙いで山梨県内のポイントに行き、リョウブの花に来るという情報を手がかりに、道沿いに咲くリョウブの花を見つけては丁寧に掬っていった。
だが、オオヨツスジハナカミキリやヨツハナハナカミキリは見つかっても、本種は見つからない。それはもちろん予想していたことである。本種は簡単に見つかるような種ではない。初見のコウヤホソハナカミキリを見つけるも、網に入れようとしたらパッと飛び立ち一直線に空高く飛んで行ってしまった。ツイてない、とは思いたくない。
いくつかリョウブを掬ったあとに、ノリウツギの高木を見つけたので、近くまで行って、白い花を眺めていた。ピドニアはよく集まっているが、イガブチのような大型個体は見当たらない。
すると、なにやら向こうから赤くて大きなハナカミキリが飛んでくるのが見えた。アカハナカミキリかとも思ったが、触覚がまだら模様のような気もする。そして、その個体は、私の目の前のノリウツギの花にとまった。するとはっきりそのフォルムが視認できた。「イガブチだ!」
高鳴る鼓動を押さえ、網をそっと持ち上げ、花ごと網の中に入れて、慎重に揺らす。イガブチが花から網へフォールするのが見えた。網をそっと抜き、地面に伏せ、そのあと網の中にイガブチが確かにいることを確認した。そのときになって、指が震えはじめた。
狙って見つかる種ではないと知っていたので、こんな出会い方は一生忘れられない。

発見日記2(翌年)
翌年7月末、ムナミゾハナカミキリを狙って富士山周辺へ向かった。ムナミゾハナカミキリは午後に活動的になるとのことで、午前は花掬いをして時間を過ごすことにした。
樹海周辺でオオアオカミキリが採れた。林道に入り、標高を上げていくと、満開のシナノキがちらほら。試しに掬ってみるとベニハナやタテスジホソハナが網に入る。また初見のクロルリハナカミキリやシナノフクロカミキリも採れてテンションが上がる。
近くにカツラの大木があったので、網の口を上に向けて、ビーティングで葉を探ると、初見のチャイロヒメコブハナカミキリも採れた。やはりここはカミキリムシの多様性が高い。
その林道をさらに行くと、ハチやカミキリモドキなど大量の虫があつまっているシナノキを見つけた。掬ってみると普通種に混じって大きいハナカミキリムシがひと掬いで何個体も入った。そして、その中に混じっていたのがなんとイガブチヒゲハナカミキリだった。その後も4個体を見つけることができた。
ちなみに、前年逃げられた初見のコウヤホソハナカミキリも、この日の前日に身延方面の山で捕まえることができ、期せずしていくつかの宿願をまとめて果たすに至った。
富士山麓の森の豊かさを改めて実感した日となった。

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分類
カミキリムシ科/ハナカミキリ亜科
学名
Corymbia igai
大きさ
体長18〜25mm
分布
本州、四国、九州
寄生植物
サクラ、トウヒ、サワラが知られる。
特長・生態
本種が姿を現すのは、限られた時期の限られた山域である。筆者は狙いを絞ってリョウブの多い場所に訪れ、結果的にはノリウツギに訪花しているメスを見つけた。
森林の中でも、ブナ林などが出始める山地帯、針葉樹林帯が出始めるあたりの標高に生息する日本固有のカミキリムシ。シナノキ、ノリウツギ、リョウブなど山地性の植物に訪花する。市街地や平地、河川では見られない。
いかにもハナカミキリらしい形だが、黒とオレンジの色合いが美しい。太い脚とマダラ色の触覚に貫禄が感じられる。触角の基部が何カ所か黄白色となる。
見かけるのは7月〜8月。国(環境省)のレッドリストには掲載されていないが、京都府で「絶滅種」、愛知県で「絶滅危惧種ⅠB種」に指定され、数は少ない。
近縁種「ブチヒゲハナカミキリ」との違い
近縁種「ブチヒゲハナカミキリ」と似るが、以下の見分けポイントで区別可能
- イガブチヒゲハナカミキリ(18〜25mm)の方がブチヒゲハナカミキリ(13~16mm)より一回り大きい。
- イガブチヒゲハナカミキリは前胸が無毛だが、ブチヒゲハナカミキリは前胸が毛で覆われている。
- イガブチヒゲハナカミキリのオスはブチヒゲハナカミキリのオスと比べ、後ろ脚の中間部分(後肢腿節)が強く湾曲し、かつ扁平しているため太い。
- イガブチヒゲハナカミキリのメスの前胸が赤い(写真)が、ブチヒゲハナカミキリのメスの前胸は黒い。
