テントウムシがガラスの壁を滑らずに歩けるのは、どうやら足の裏の密集した毛によるものであることは分かっていましたが、その力の由来が、分子間力によるものなのか、表面張力によるものなのか、それとも別の力によるものなのかは、はっきり分かっていませんでした。
それが、2021年に、この力の由来は分子間力(ファンデルワールス力)が主因であることが明らかになりました。
テントウムシの顕微鏡ミクロ観察(足裏の剛毛)
テントウムシの足の裏には、白い毛が絨毯みたいにびっしり生えている部分が2カ所あります。また、それ以外にも部分的に密集した毛があります。
これはテントウムシが枝や壁にくっつくための仕組みですが、あまり詳しいことは分かっていませんでした。
虫はだいたいかぎ爪を持っていて、凹凸にフックしながら壁や枝を登ります。テントウムシもかぎ爪状の器官は持っています。でもテントウムシはそれ以外にも、この毛を使って壁や枝をすらすら登る仕組みを持っているのです。フックとは異なる原理です。
テントウムシはまた、蜘蛛の巣の糸の上さえすらすらと歩いているのを見かけます。この剛毛は「つかずはなれず」にどんなところもすらすら歩く(登る)役目を持っています。
筆者ははじめこの剛毛を見て、ヤモリと同じようなファンデルワールス力を想像しました。
ファンデルワールス力とは、原子・分子間に働く引力のこと。ヤモリは足裏に密に生えた毛と壁とのあいだに引力を生じさせて、まるで磁石のように壁に張り付くことができるのです。
このことは2014年に発見されていました↓
ヤモリ、足裏の吸着と解除のしくみ解明 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト
ヤモリの場合、もしこの白い毛で1メートル四方のシートを作ったとしたら、車1台をも持ち上げる力に匹敵するそうです。また、足を離すときはその毛の向きを微妙に調整することで穏やかに引き離せるといいます。
しかし、テントウムシのこの脚の裏の毛に関しては、その接着原理はあまり分かっていませんでした。ヤモリの毛の先がヘラ状になっているのに対して、テントウムシの毛の先はラッパ状、繊維状の混在になっていて、その役割がまだ分かっていなかったのです(出典:http://www.technex.co.jp/tinycafe/discovery26.html)。
そして今回、テントウムシもやはりこの剛毛でファンデルワールス力(分子間力)を呼び起こして壁などに接着していることが分かりました。
ちなみに、テントウムシに見られた毛と似たものがタマムシにも見られます。同じコウチュウ目で、進化系統的にも近い仲間だから、同じ機能を持っているのでしょう。