ムナミゾハナカミキリはハナカミキリ亜科のカミキリムシ。1属1種の日本在来種。その生態は一風変わっていて、標高の高い森の中で、コケにすっかり覆われたような崩れかけの切り株の周辺で暮らしているという。幼虫はその切り株で育つらしい。
前胸板の中央部分に縦方向の溝があることが名前の由来。
カラマツ、ヒノキ、ツガ、トウヒなど針葉樹の天然林、原生林にひっそりと暮らす。
発見日記(2025年7月 富士山麓)
真夏でも涼しい富士山麓へ。シナノキの花が咲いていた、その花でイガブチヒゲハナカミキリやその他のハナカミキリを採って観察。
その後、標高を上げながら今度はムナミゾハナカミキリがいそうなポイントを探す。なんとも贅沢な山域だ。しばらく林道を上がるとシラビソ林が現れる。コケむした森でいかにもムナミゾハナカミキリがいそうな雰囲気である。

しばらく見渡し、飛翔している虫がいないか観察するが、それらしい虫は見当たらない。朽ち果てた切り株は多くあるので、その中でもひときわ大きく、そしてひときわコケむした切り株に目星をつけて、その切り株の周りをぐるっと上から見回した。すると、本種のものとおぼしき脱出痕が無数にあるではないか。
これはいるかもしれない、と期待に胸を高鳴らせて、切り株の周辺を洞の中も含めて顔を近づけてじっくり探すと、切り株の端っこにのそのそと歩いている虫を発見!手にとって見てみると、ムナミゾであった。
本来であれば生態写真を撮りたかったのだが、万一逃げられたら嫌なのでその前に捕まえた。まさかほんとに採れるとは思っていなかったので、夢のようで手が震えた。その後、追加個体を探したが、それ以上見つけることはできなかった。
ふと気づくとすぐ近くに直径1.2メートルくらいの穴が空いているではないか。なんだこれ?そっと覗くと、腐葉土みたいな底は一応見えるがそれなりに深い。なんだか不気味なので車に戻った。

家にかえって調べてみると、どうやら「溶岩樹型」というものらしい。富士山が噴火したとき、押し寄せてきた溶岩が巨木の幹を包み、その痕が残って木だけがなくなってできた縦穴だという。
柵がないので怖い。そもそもこんなところに来る人はいないから自己責任。よそ見しながら歩いていたら危なかった、ほんとに。そもそも溶岩の厚さは何メートルなんだろう?そう思ってchatGPTに聞くと「最大で25m以上の厚さを持つ場所がある」とのこと。また怖くなった。
その噴火から今まで、穴に落ちて命を落とした鹿やイノシシもいたかもしれない。熊なら這い上がれるだろう。私ならどうだっただろうか?
そんなことを考えた。他にも考えた。もしまた富士山が噴火して溶岩が押し寄せたら、このエリアのムナミゾは絶滅するだろう。そしてムナミゾの東限は富士山周辺ではなく南アルプスに変わるのだろう。偶然見つけた穴は、そんな昆虫の悠久の営みを想像させてくれた。
特長
学名 | Manamizoa maculata | ||
分類 | カミキリムシ科/ハナカミキリ亜科 | ||
大きさ | 体長13~16mm | ||
分布 | 本州、四国 | ||
特徴、生態 | 標高の高い山地で見られる。成虫は7〜8月に見られ、午後や夕方になると、地上付近を活発に飛ぶ。 富士山麓が東限と思われる。 訪花する。 |
ムナミゾハナカミキリの絶滅危惧レベル
その特殊な生態ゆえ、各地で絶滅が危惧されている。
地域 | カテゴリ |
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三重 | 絶滅危惧ⅠA類 (CR) |
奈良 | 絶滅危惧Ⅱ類 |
愛媛 | 準絶滅危惧 (NT) |
写真
(写真準備中)



