ベーシックインカムとは?〜私たちは資本主義に同意して生まれてきたわけじゃない…

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ベーシックインカムとは?〜私たちは資本主義に同意して生まれてきたわけじゃない…
2021/02/15

最近よく耳にするベーシックインカム。

ここでは、ベーシックインカムの意味と国内外の導入状況を解説します。

『私たちは資本主義に同意して生まれてきたわけじゃない』。そう感じる人もいるかもしれません。今の資本主義は、過度の労働と競争を強いてしまう特質が強く、資本主義の一部の『雇用』は昔の奴隷制度や強制労働と類似性がある、と指摘する社会学者もいます。行き過ぎた格差。お金持ちの横で、食べ物がなくて苦しむ人がいる社会。果たして、この経済システムは人類の社会として一番いい形でしょうか?

資本主義を前に、人間本来の『生きる』意味は二の次にされがち。そんな今だからこそ、ベーシックインカムが世界で注目されているようです。

ベーシックインカムとは?その意味は?

ベーシックインカム(basic income)(BI)とは、国が国民全員に一定額の現金を持続的に支給して、最低限の所得を保証する制度です。

失業者も高所得者も関係なく全ての人が受け取れるという意味で、ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)と呼ばれることもあります。

一般的にベーシックインカム(BI)といえば、国民に無条件で基本的な所得を給付するUBIを指すため、本記事でもベーシックインカムをユニバーサルベーシックインカムと同義に用います。

ベーシックインカの導入例

世界で導入している国はまだありませんが、試験的に導入している国はあります。ドイツ、フィンランド、カナダ、アメリカ(アラスカ、サンフランシスコ、カリフォルニア)、ケニア、オランダなどで導入実験が行われています。

アラスカ州の導入例

本来のベーシックインカムの定義とは少し異なりますが、アラスカ州では、1982年から年齢に関係なく住民に「配当」として現金に給付しています。対象者は男性、女性、子供すべてです。2019年は、1人当たりおよそ17万、4人家族の場合はおよそ71万が給付されました。

この支給には、アラスカ永久基金(APFC)という、アラスカ州の石油・天然ガスなどの資源やパイプラインによる収入の一部を積み立てている信託基金を使っていることが注目すべき点です(「ベーシックインカムのデメリット」で後述)。1982年からこの基金の一部を「配当」として地元住民に給付しています。

国民が貧困となる割合が減少し、また出生率が増加するなどの変化が起きていて、ベーシックインカムとの関連性が調べられています。

ドイツのベーシックインカムの導入例

ドイツでは2020年8月にユニバーサル・ベーシックインカムの3年間の調査研究を開始し、そのなかで120人が毎月15万円程度を受け取って生活しています。ベーシックインカムをもらわなかった人たち(従来通りの働き方の人たち)と比較し、ベーシックインカムの社会的効果を測定することになっています。

スペインのベーシックインカムの導入例

スペインではUBIを恒久的な政策にできるかどうかの可能性を探るため、最貧層100万世帯を対象にして毎月、一定の収入を保障する計画を立てています。『最貧層』をターゲットとしている点で、特殊なベーシックインカムですが、将来的な政策としてはベーシックインカムを想定しています。

フィンランドのベーシックインカムの導入例

フィンランドは、2017〜2018年なら2年間、失業者2,000人に月6万6千円程度を払うベーシックインカムの社会実験を行いました。

その結果、雇用への効果は思うように得られなかったものの、ベーシックインカムに参加した失業者は失業状態でもストレスが少なく自信を持ち、精神的に健康を崩す人も少なかった傾向が顕著に見られたそうです。

ケニアのベーシックインカム実験

ケニアは試験的にベーシックインカムを行っています。

ベーシックインカムのメリット

ベーシックインカムにおけるメリットを解説します。

ただし、ベーシックインカムは世界的にもまだ社会制度として恒久的に実施している国はなく、それゆえメリットもデメリットも未だ予測の下で指摘されている範囲であることに注意が必要です。

強盗、窃盗、空き巣などの犯罪の減少

貧困による犯罪、たとえば強盗、窃盗、空き巣などが減少すると指摘する専門家もいます。

精神状態の改善、うつ病患者の症状の改善

フィンランドの2017から2018年にかけての2年間のベーシックインカム実施調査(失業者2,000人に月6万6千円程度を払う社会実験)によると、現金支給により精神面の健康を崩す人が減ったと報告してます。

また、ベーシックインカムがうつ病を減らすという論文もあり、ベーシックインカムの導入が自殺者の防止や医療費の軽減に繋がる可能性があると言われています。

それは、資本主義の一面が失業者の過度の自己評価低下を招き、生きる希望を失って、鬱病や精神疾患など健康面の問題を引き起こしてしまう今の社会を示しているかもしれません。

少子化対策・育児のしやすさ

とくに日本では少子化が国家の課題となっていますが、ここには労働賃金の問題や貧困、育児の母親に対する負担などが原因としてあります。

ベーシックインカムが導入された場合、すべての子育て世代の親にも、子供にも現金が支給されるため、子供が多く生まれるほど、インカムが増えルことになります。つまり、ベーシックインカムが出生率の増加や少子化対策につながると考えられています(アラスカ州の事例でも出生率が増加し、現金支給との関連性が調べられています)。

ベーシックインカムのデメリット・課題

生活保障がなくなる⁉

ベーシックインカムを現行の社会保障の代替として捉える国もあり、その場合、国民は自分の食料品や医療費、介護費などをベーシックインカム内でやりくりして生活をしていくことになり、社会保障に頼れなくなり、生存における自己責任の要素が強まる可能性が指摘されています。

いくら毎月生活できるだけの現金(10万円など)を支給されても、病気になって長期的に入院する人や介護を必要とする人、難病の人などは、それだけでは生活していくことが難しくなります。そのため、ベーシックインカムは、(既存、ないし新しい形の)社会保障制度とセットで考えていく必要があると指摘する専門家も多いようです。

財源の枯渇

ベーシックインカムの導入可能性を検討する上でしばしば問題となるのは、その財源です。

他の政策と異なり、ベーシックインカムは永久的に大規模な財源が必要となります。一度スタートしたベーシックインカムが財源不足のため中止となった場合、それを頼りにしていた国民はたちまち貧困に陥ってしまいます。

その財源を長期に渡ってどう用立てるか、その目処が立たない国が多いようです。

一方で、アラスカ州のように、その国の資源による利益の一定割合を長期的に積み立てて、そこから安定的に支給金を確保する事例もあります。実際、アラスカでは1982年から継続して、男性、女性、子供関係なく住民に年間17万円(2019年)を支給しています。

労働意欲の減退

ベーシックインカムが就労意欲をそぐのではないか、という意見もあります。

しかしそもそも、ベーシックインカムは『行き過ぎた資本主義』や『AIによる、人の労働機会の減少』に対する新しい価値観です。つまり、ベーシックインカムは人間の『生きる』を問い直すきっかけを与える可能性があります。今は『生きる=働く』が当たり前ですが、未来の社会では『生きる=交友』かもしれないし『生きる=協力』かもしれません。

ベーシックインカムとユニバーサル・クレジットの違い

ユニバーサル・クレジットは低所得者向けの給付制度です。個人単位ではなく世帯単位で給付されるのがベーシックインカムとの違いです。

ユニバーサル・クレジットをいち早く取り入れた国としてはイギリスが有名です。

イギリスでは、低所得者への「ユニバーサル・クレジット」制度を2010年に段階的に導入すると発表し、2017年夏までにおよそ60万人が受給しました。

そのデータと、他国(フィンランドなど)で行われたベーシックインカムの実験データを比べると、制度維持のための所得税増額率や貧困率の変化、所得格差などが、ベーシックインカムよりもユニバーサル・クレジットの方が優れているとして、注目されました。

ただ一方で、ユニバーサル・クレジットでは、低所得になった段階で支給されるため、それまでに滞納していた家賃や税金が一括で差し引かれて生活費が足りなくなる、申請しても受給までに数ヶ月のタイムラグがある(これは実質的な事務手続きの都合が理由)などの問題も明らかになりました。

また、世帯単位での支給であるため、もしも家庭問題(DVなど)があった場合、個人がその環境から抜け出しにくい・逃げ出しにくい面があると指摘されています。

ベーシックインカムと日本の『生活保護』の違い

ベーシックインカムと日本の「生活保護」は違います。

生活保護は所持金がなくなり、所有物もない、収入も援助もない状態にならないと受給できません。たとえ払えなくなったとしても住宅ローンがあるなら生活保護は受給できません。

ベーシックインカムはすべての人に、収入や性別、年齢に関係なく支給される制度です。

ベーシックインカムは未来のスタンダードか?

ベーシックインカムは未来のスタンダードどうなるのでしょうか?

今は社会実験により、ベーシックインカムの効果が測定され、財政面などで持続的な導入が可能かどうか検討されている段階です。そのため、将来のスタンダードになるかどうかは、まだ誰にも分かりません。

将来、AIが人の労働をますます代替していく中、世界の経済界のリーダーたち(テスラのイーロン・マスク、Facebookのザッカーバーグなど)はベーシックインカムを支持しています。もしもベーシックインカムの社会的メリットを確認でき、現実的な課題をクリアできれば、100年後ベーシックインカムが世界のスタンダートなっている可能性は十分あります。100年といわず、数十年後には世界で導入が進む可能性もあります。

『私たちは資本主義に同意して生まれてきたわけじゃない』〜資本主義で見えてきた問題

私たちは資本主義に同意して生まれてきたわけではありませんが、ある人たちは生活を楽しめなくなるほど働き、人間らしさを失ってまで働いています。過労で精神を病んだり自殺する人もいます。人間らしさとは、自然の四季に触れあい、家族との時間を過ごし、自分の時間を過ごすことであるはずでした。

私たちは失業すると多くの場合、生活に困窮します。しかし、失業しても生活に困窮しない社会はないのでしょうか?企業活動に参加しないと決めても生活できる社会はないでしょうか?

もちろん昔から人は生存のために行動をとってきました。これからも生きるための行動は必要なはずです。しかし、過労や失業で命を落とすまで追い詰めるこの社会とはいったいどのようなものでしょうか?

そんな社会に労働力として寄与したくないという人たちもいるでしょう。そういう人たちも包容する社会があるとしたら、それはいったいどのようなものでしょうか?

「昔あった奴隷制度や強制労働は、現在の資本主義における『雇用』と類似性がある」、「今の資本主義で奴隷制度(のようなシステム)は受容可能である」と、社会学者や歴史学者は指摘しています。資本主義と一口にいっても何種類にも細分化されるため、ひとまとめに扱うことはできませんが、それでも、一般に日本や欧米で続けられたきた資本主義の問題点を指摘する声は日増しに増えています。

*PhotoACより

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