別種のアリを奴隷のように働かせる習性を持つアリがいる。サムライアリによるクロヤマアリの『奴隷狩り』だ。
もくじ
サムライアリとは
巣に同居する奴隷のクロヤマアリを働かせて、労働を一切しないアリ。
サムライアリとクロヤマアリの違い、見分け、区別
姿はクロヤマアリとよく似るが、よく見るとアゴの形が異なり、サムライアリは鎌のように鋭い下アゴを持っている。サムライアリの下アゴはカマ状だが、クロヤマアリの下アゴはペンチ状。
体はクロヤマアリと同じ黒褐色だが、腹部に白い環状の模様が目立つ。また、サムライアリはゆっくり落ち着いて歩くため、せかせかと落ち着きなく歩くクロヤマアリと容易に区別できる。
サムライアリの分類
ハチ目/アリ科/ヤマアリ亜科
サムライアリの分布
北海道、本州、四国、九州。東日本に多い。
サムライアリの大きさ
(体長)働きアリ:4〜6mm 女王アリ:7mm
サムライアリによるクロヤマアリの『奴隷狩り』
サムライアリは、クロヤマアリなど別種のアリの巣を襲い、そのさなぎや幼虫をさらって自分の巣で奴隷として働かせる。『サムライアリの奴隷狩り』と呼ぶ。
奴隷狩りは夏から秋口にかけて午後や夕方に行われることが多いが、その理由は不明。
サムライアリは自分で餌を集めず、奴隷狩りしたクロヤマアリがエサの確保、サムライアリの卵やさなぎの世話、巣の掃除などをする。サムライアリは奴隷狩りの時以外は地上へほとんど出ない。サムライアリを見かけることはめったにない。
『乗っ取り』と『奴隷狩り』の違い
別の種のアリの巣の乗っ取る習性はトゲアリ、クロクサアリ、アメイロケアリなどでも知られるが、それでも乗っ取りを行った種の働きアリは卵の世話や女王の世話、エサの収集など通常労働を行う。
それに対して、サムライアリは通常労働さえ行わず、狩ったクロヤマアリの働きアリにそのほぼすべてを行わせる。その点で『巣の乗っ取り』と『奴隷狩り』が異なる。
サムライアリの女王アリによる『乗っ取り』
サムライアリの女王アリは、以下の手順でまず巣を乗っ取る。
- 空中飛行(結婚飛行)で交尾したクロヤマアリの女王アリは、一匹でクロヤマアリの巣に乗り込む。クロヤマアリの働きアリの攻撃をかわしながら、巣の奥へ進む。
- クロヤマアリの女王アリを見つけて噛み殺す。その際、サムライアリの女王はクロヤマアリの女王の匂いや体表成分を舐めて自分の体にまとうとされる。
- クロヤマアリの働きアリはサムライアリの女王アリに従うようになり、その世話を始める。
ただし、1、2の段階で、サムライアリの女王アリが死ぬ場合も多いと言われている。
サムライアリの働きアリによる『奴隷狩り』
サムライアリの女王アリによるクロヤマアリの巣の乗っ取りが成功すると、もともと巣にいたクロヤマアリの働きアリたちはサムライアリの女王やその卵、さなぎの世話をし、育てるようになる。
- ふ化したサムライアリの働きアリとクロヤマアリの働きアリの共同生活となる。
- だんだん巣の中はサムライアリが増え、クロヤマアリは寿命で死んでいく。
- そのため働き手がいなくなる。新たな働き手を確保するため、今度は生まれたサムライアリの働きアリたちが近くの新しいクロヤマアリの巣を襲う。これが『奴隷狩り』となる。一斉にクロヤマアリの巣に侵入し、クロヤマアリの幼虫やサナギをさらう。一日に複数回奴隷狩りを行うこともある。
サムライアリの攻撃性
サムライアリを捕まえて指の上にのせると、他のアリとは全く異なる習性をみせる。
つまり、その大きなアゴで執拗にかみつき、その場を離れない。普通のアリなら、すぐに逃げだすが、サムライアリはいつまでも指の上に留まり、噛みつく。かまれる場所が指と指の間など皮膚の薄い場所だとまるでハチに刺されたような激痛が走るので注意するべきである。